アフリカは遠いか? 60年代末のビアフラ戦争、80年代の饑餓キャンペーン、ルワンダの虐殺、メディアのなかで一時的に拡大しては縮小するアフリカ。だがアフリカは本当に遠いのだろうか?
四年間の毎日新聞ヨハネスブルグ支局勤務中に「格差と暴力」をテーマに据えた記者が、南アフリカとモザンビーク、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、スーダン、ソマリアと、豊かな資源があるゆえに激しい紛争が起きつづけている地帯を、周到な準備と、鋭い勘と、まさに強運としかいいようのないパワーで取材し、帰国して結実させた、それが本書だ。
読みながら「僕の国が貧しいのは資源があるからです」と語るコンゴ民主共和国出身の、在日の知人の顔が何度も思い浮かんだ。
冷戦時代から常に代理戦争の現場となってきたアフリカ、資源採掘の安全を確保するために大手鉱山会社から武装グループに流れる資金、旧ソ連や中東から大量に流れ込んだ武器、国家予算の大半が軍事費に消えてしまい、教育・衛生予算がゼロという国さえある。
念入りな統計値と現場取材でまとめた内容は説得力に富み、アフリカと世界各国の緊密な関わりをみごとな切り口で描き出す。とりわけルポの部分は息をつかせずに読ませる。
モザンビークで美人コンテストと偽り南アの売春宿に売り飛ばされた娘が見せる恥じらい。ナイジェリアで初めて石油が採掘された村に、いまだに電気がないと語る村長の悔い。密入国したサヘル地帯で会った、ゲリラ戦司令官に随行してきた少年兵のつっぱり。取材相手を描く記者の視線はどこまでもやわらかだ。
アフリカ各地に紛争状態を維持することで莫大な利を得る者がいる。めぐりめぐってその恩恵を受ける北側社会のなかに私もいる。アフリカはケータイやPCに欠かせない希少金属コルタンの埋蔵量が世界一なのだ。
周囲の人たちがみんな貧しいところでは凶悪な犯罪は起きないという。だが、目にあまる格差が生み出す暴力は、利を得る北側の日常にもいつか、ブーメランのように帰ってくるのだ。
アフリカは本当に遠いのだろうか? なにかが遠くしているだけではないのか? そんな問いにこの本はまっすぐ答えてくれる。
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付記:
もちろんこの本だけで「アフリカ」がすべて見えてくるわけではない。著者の狙いは、あえて紛争地帯を取材して「格差と暴力」という視点から、この大陸の歴史と現在をくっきり浮き彫りにすることにあった。その結果、ニュース価値を高めることに成功したのだ。
この大陸の多様性はたった一冊の本では見えない。次の本はきっと、4年間のアフリカ滞在中の、ごく日常的な暮らしや、人びとの素顔を伝えるものになることを期待したい。たった一冊の本を読んだだけで「わかったつもりになること」にこそ「シングル・ストーリーの危険」はあるのだから。
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北海道新聞、2009年10月25日書評欄に掲載されたものに少しだけ加筆しました。
『ルポ 資源大陸アフリカ』(2009年8月刊、東洋経済新報社、1900円+税)