2019年7月29日月曜日

短篇集『なにかが首のまわりに』が河出文庫に

待望の文庫、2019年
2019年7月に『なにかが首のまわりに』(河出文庫)が刊行された。ちょうど10年前の2009年に書かれた記事との関連性を明確にするために、加筆して新たにアップすることにした。


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 ナイジェリアの作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短篇集『なにかが首のまわりに/The Thing Around Your Neck』がロンドンの Fourth Estate から出版された。(表題作は最初「アメリカにいる、きみ/You in America」というタイトルで発表された短篇で大幅に加筆されている。)

日本では一足先の2007年秋に拙訳『アメリカにいる、きみ』(河出書房新社刊)が独自版として出ているけれど、今回の英国版は12篇から構成され、そのうち6篇が日本版と重なる。(2019.7.28付記:タイトルが変わった作品もあるので要注意。)残る6篇はおもに日本語版の内容が決まった後に発表された作品で、未発表作品も1篇ふくまれている。(この6篇は2013年の『明日は遠すぎて』に収められた。)

 新たに加わったその6篇とは、ナイジェリアを舞台にした「セル・ワン」「明日は遠すぎて」「がんこな歴史家」の3篇と、米国へ移民した人たちを描いた「先週の月曜日に」「震え」(新作)、南アフリカで開かれた作家会議を皮肉った「ジャンピング・モンキー・ヒル」だ。

 アディーチェは2008年10月に、なんと50万米ドルものマッカーサー奨励金を獲得して、書くことに専念できるようになった。当時、イェール大学でアフリカ学の修士号を準備中だったが、アカデミズム内の「アフリカを見るステレオタイプの視線」に強く反発するこの作家、それを次の本のテーマにするかもしれない、とあるインタビューで語ったりしている。

 ナイジェリア国内での活動もめざましく、今夏もまた若手作家を育てるワークショックを開催する予定だ。すでにスポンサーも決定したそうだ。
 一方、ネルソン・マンデラやパウロ・コエーリョなど著名人が名をつらねる「教育のためのグローバル・キャンペーン」にも積極的に参加し、そのための短篇「チナサ/CHINASA」を発表、これはネット上で読める。

 ビアフラ戦争を扱った長編『半分のぼった黄色い太陽』を訳しながら、あちこちに出没する31歳の若い作家から目が離せずにいる──と書いてから10年がすぎたなあ。

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元記事は2009.5.17にアップした、北海道新聞2009年4月28日付夕刊掲載の「世界文学・文化アラカルト──世界を駆けるアディーチェ」で、短篇タイトルなどを文庫化に合わせて変えてあります。