2009年5月17日日曜日

「なにかが首のまわりに」──チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ新作

こちらに引っ越しました。

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2009年5月5日火曜日

ドラゴンは踊れない──アール・ラヴレイス

 わらわらわらっ!!  面白い本があらわれた。まだ読んでいる最中なのに、書かずにはいられません。アール・ラヴレイス著『ドラゴンは踊れない』という本です。

 カリブ海のかなり南のほうにトリニダードとトバゴという島々があって、その地のカーニヴァルの話。といっても、観光客めあてにご案内するような本ではなくて、そこに住んでる人たちの暮らしやらその内実やらをしっかり書いている本。たとえば、女はって生きてくお姉さん、喧嘩っ早いお兄さん、頑固な無職のおじさん、偉ぶってるけれどじつは脆い美人のおばさん、かあちゃんの男に殴られるガキンチョなんかも出てきて、カリブ海諸島の歴史も、音楽も、政治も、みーんなひっくるめて大盛りのサラダボールみたいに入っている。年に一度のカーニヴァルに着るドラゴンの衣装を作ってる男が主人公で、彼が住んでるヤード(路地庭)を中心に話は進む。

 それも、息づかいや、声のかすれ具合まで聞こえてきそうな語りっぷりなのだ。ナラティヴ文体といわれるおしゃべり文体もここまで行けば、もういうことなし! 読んでいてこっちまで身体が踊り出しそうになる。職業病で、ついつい、ここ、原文はなんだろう? と思わずエンピツで線を引いたりしてしまう、絶妙な訳文に脱帽!

 それにしても感心するのは、カリブ世界の元奴隷やら年季奉公労働者の、いわば底辺社会の人たちの基本的に「マッチョ」きわまりない世界をここまでリアルに描きながら、作者ラヴレイスの目がものすごく優しいことだ。女にも男にも、人間の強さも弱さも、こすっからさまで含めて、とことん暖かいアプローチなのだ。会話と会話のすきまの、言外の微妙なやりとりを描き出す力もまた、すごい。

 断然、☆☆☆☆☆ です。

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アール・ラヴレイス著 中村和恵訳『ドラゴンは踊れない』(みすず書房刊、2009年2月)

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