
この6月「ニューヨーカー誌」で「40歳以下の作家20人」に選ばれたアディーチェは、気鋭の作家を輩出してきた英国の雑誌「グランタ」と「群像」の相互提携による新企画で、最新短篇「シーリング」の邦訳が世界に先がけて掲載されたばかり。さらに8月末にはビアフラ戦争を背景にした長編小説『半分のぼった黄色い太陽』の拙訳も出る(河出書房新社刊)。
「ビアフラ」という名はある年代以上の人にとって、膨らんだ腹部に枯れ枝のような手足をした裸の子供の写真とともに思い出される「アフリカ」の戦争だ。アフリカと飢餓のイメージが結びついたのはこのときの報道が大きかった。
だが、この作品はそんなステレオタイプを快く裏切り、あの戦争を生き抜いた、または、生き抜けなかった人びとのパワフルなラブストーリーとして読ませてしまう。若い作家の才能というしかない。
翻訳にかかりきってきたせいか、この旋風が猛暑を運んできたのかとつい錯覚しそうになって苦笑している。
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2010年8月17日北海道新聞夕刊に掲載されたコラムに加筆しました。